
歯科衛生士・技工士の人材確保、医院が見る要点
2026年5月7日、厚生労働省の「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」第1回資料が公開されました。歯科医院に関係するポイントは、歯科衛生士・歯科技工士を含む医療関係職種について、少子化、養成校の定員充足率、現場への定着、働く環境、地域差が横断的な論点として整理されたことです。
結論から言うと、これはすぐに歯科医院へ新しい届出や義務を課す資料ではありません。ただし、医院の採用難やスタッフ定着、技工物の安定供給を考えるうえでは、求人票だけではなく、教育、復職者の受け入れ、勤務環境、地域の養成校や職能団体との接点を見直すきっかけになります。
この記事では、厚労省の検討会資料と令和6年衛生行政報告例、日本歯科衛生士会・日本歯科技工士会の公開情報を基に、歯科医院が今確認したい実務を整理します。
厚労省検討会で何が示されたか
今回の検討会は、特定の職種だけの採用対策ではなく、医療関係職種全体を持続的に養成・確保するための論点整理として始まっています。歯科医院は、歯科衛生士と歯科技工士だけを切り出すのではなく、医療人材全体のなり手不足の中で歯科専門職をどう確保するか、という文脈で読む必要があります。
第1回は養成・確保の横断論点を整理
第1回資料では、人口減少や18歳人口の減少、地域差、養成施設の定員充足率、養成から現場へのつなぎ、働く環境などが示されました。資料4では、主な論点として「養成体制の整備」「養成から現場へのつなぎ支援」「働く環境の整備」「地域における推進体制の整備」が挙げられています。
医院単位で言い換えると、採用は「募集して応募を待つ」だけでは足りません。新人や復職者をどう育てるか、どの業務から任せるか、長く働ける勤務設計になっているかまで、採用前から見せられる状態にする必要があります。
第2回は2026年5月25日に地域の養成・確保体制を扱う予定
厚労省の検討会一覧では、第2回が2026年5月25日に予定され、議題は「医療関係職種の地域の養成・確保体制について」とされています。2026年5月23日時点で、一覧ページ上は第2回の開催案内が掲載されている段階です。
地域差が議題になる場合、歯科医院にとって重要なのは、自院の地域で歯科衛生士・歯科技工士の養成校、就業先、復職支援、職能団体の活動がどうつながるかです。全国平均だけでなく、地域の採用環境を見る視点が必要になります。
歯科衛生士・歯科技工士の数字をどう読むか
数字で見ると、歯科衛生士と歯科技工士は同じ「人材不足」とまとめられがちですが、状況は同じではありません。歯科衛生士は就業者数が増えていますが、若手の供給と定着が課題です。歯科技工士は就業者数と養成面の両方で厳しい数字が見えます。
定員充足率は歯科衛生士79.1%、歯科技工士53.5%
厚労省の資料3では、令和6年度入学者数を基にした定員充足率として、歯科衛生士79.1%、歯科技工士53.5%が示されています。ここでいう定員充足率は、入学者数を入学定員数で割った割合です。
歯科衛生士は約8割、歯科技工士は5割台という数字です。医院の現場では「今採れるか」だけに目が向きますが、養成段階の充足率は数年後の採用市場に効いてきます。とくに歯科技工士は、院内技工士の採用だけでなく、外注先の人員体制や納期にも影響し得ます。
就業者数は歯科衛生士が増加、歯科技工士は減少
厚労省の令和6年衛生行政報告例では、令和6年末の就業歯科衛生士は149,579人で、前回の令和4年末から4,396人増加しました。一方、就業歯科技工士は31,733人で、前回から1,209人減少しています。
日本歯科衛生士会の整理では、就業歯科衛生士のうち診療所勤務は135,499人で、構成割合は90.6%です。歯科衛生士は歯科医院にとって中心的な人材であり続けていますが、同会は若手の就業定着支援や復職支援体制の必要性にも触れています。
医院の採用で見直すべきこと
今回の検討会資料は、個別医院の求人マニュアルではありません。それでも、医院が採用と定着を見直す材料としては十分に使えます。特に、求人条件、教育、復職者受け入れ、勤務環境を別々に扱わないことが大切です。
求人条件だけでなく育成導線を示す
採用ページや面接で伝える内容は、給与や勤務時間だけでは不十分です。新人歯科衛生士にどの業務から入ってもらうのか、SRPやメインテナンスの担当範囲をどう広げるのか、院内研修や外部研修の費用・時間をどう扱うのかを具体化すると、応募者が働くイメージを持ちやすくなります。
歯科技工士を院内で採用する医院では、デジタル技工、チェアサイド連携、補綴設計への関わり方など、技術を高められる導線を示すことが重要です。外注中心の医院でも、技工所との情報共有や再製作を減らす設計は、人材不足時代の安定運用につながります。
復職者と若手を分けて受け入れ設計する
日本歯科衛生士会は、未就業歯科衛生士の雇用促進を目的に復職支援事業を案内しています。復職者は経験がある一方で、ブランク、家庭事情、勤務時間、最新機器や記録システムへの不安を抱えていることがあります。
そのため、若手向けの教育と復職者向けの再導入は分けて考える方が実務的です。たとえば、復職者には短時間勤務から始める、最初の担当業務を限定する、予約枠に余裕を持たせる、院内システムの練習時間を確保する、といった設計が有効です。
技工連携と診療体制への影響
人材確保の話は、歯科衛生士だけでは終わりません。歯科技工士の養成・就業の数字は、補綴診療の納期、外注先の安定性、患者説明、医院の生産性に関わります。
歯科技工士不足は納期と補綴計画に響く
日本歯科技工士会は、歯科技工士を国家資格を有する医療専門職と説明し、歯科技工所、歯科診療所、病院、企業、教育機関など多様な就業先を示しています。一方で、厚労省統計では就業歯科技工士数が前回比で減少しており、養成課程の定員充足率も5割台です。
医院では、技工所からの納期遅延を単なる外注先の問題として扱わず、地域の技工人材が薄くなっている可能性も見た方がよいでしょう。補綴の予約設計、試適日、再製作時の説明、デジタルデータの共有精度を見直すことで、技工側の負荷も下げやすくなります。
院内でできる確認事項
まず確認したいのは、歯科技工所への指示書、写真、シェード情報、口腔内スキャンデータ、再製作理由の記録です。情報不足による差し戻しが多い医院では、技工士不足の影響を受けやすくなります。
あわせて、主要な技工所が休業や繁忙になった場合の代替先、急ぎ症例の扱い、患者への納期説明文言も確認しておきます。人材不足の時代には、院内と技工所の連携品質そのものが診療体制の安定性になります。
今後の確認先
このテーマは検討が始まった段階です。現時点では、歯科医院に新しい届出義務が生じたわけではありません。見るべきなのは、次回以降の資料で地域単位の養成・確保策がどこまで具体化するかです。
第2回検討会資料と地域情報を追う
次に確認したい一次情報は、2026年5月25日の第2回検討会資料、議事録、都道府県や地域歯科医師会・歯科衛生士会・歯科技工士会の人材確保策です。特に、復職支援、実習受け入れ、サテライト教育、地域での需給把握が歯科専門職にどう関係するかを追う必要があります。
医院としては、今のうちに採用ページ、教育計画、復職者の受け入れ手順、技工連携の記録を棚卸ししておくと、地域施策が動いたときに乗りやすくなります。
FAQ
今回の検討会で歯科医院に新しい届出義務は出ましたか
2026年5月23日時点で、今回確認した資料から歯科医院に新しい届出義務が生じたとは確認できません。検討会は医療関係職種の養成・確保に関する論点整理の段階です。
歯科衛生士は増えているなら採用は楽になりますか
単純には言えません。令和6年末の就業歯科衛生士は増加していますが、養成課程の定員充足率や若手の定着、復職支援の必要性も示されています。医院ごとの勤務環境と教育体制が採用力に影響します。
歯科技工士の定員充足率低下は医院に関係しますか
関係します。院内技工士を採用していない医院でも、外注先の人員体制、納期、再製作対応に影響する可能性があります。技工指示の質を上げ、納期説明と代替先を確認しておくことが実務的です。
医院が今すぐ取り組めることは何ですか
求人票の見直し、入職後の教育手順、復職者の短時間受け入れ、歯科衛生士業務の段階設計、技工所への情報提供ルールの整理です。大きな制度変更を待たずに始められます。
出典
- 厚生労働省「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_436723_00018.html
- 厚生労働省「第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会:資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73020.html
- 厚生労働省「資料3 医療関係職種を取り巻く現状について」 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001698055.pdf
- 厚生労働省「資料4 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する論点」 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001697800.pdf
- 厚生労働省「資料5 医療関係職種を取り巻く現状について」 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001697801.pdf
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の結果を公表します」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/dl/houdou.pdf
- 日本歯科衛生士会「就業者数(厚生労働省調べ)」 https://www.jdha.or.jp/aboutdh/shugyo.html
- 日本歯科衛生士会「復職支援事業」 https://www.jdha.or.jp/outline/fukushoku.html
- 日本歯科技工士会「歯科技工士になるには」 https://www.nichigi.or.jp/interested/guide
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