
ポリファーマシー対策、歯科問診の確認点
厚生労働省は2026年7月31日、「高齢者におけるポリファーマシー対策の普及啓発資材について」の通知を発出し、総論編・各論編・病院向け・地域向けの普及啓発資材を新たに公表しました。今回の通知は、歯科医院の算定や届出を直接変えるものではありませんが、高齢患者の問診、服薬確認、訪問歯科での情報共有を見直すきっかけになります。
歯科医院で重要なのは、「薬が多い患者を減薬する」という話に短絡しないことです。厚労省の指針では、ポリファーマシーは単なる薬剤数の多さではなく、薬物有害事象、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態として整理されています。
この記事では、2026年7月31日の通知と関連する指針を基に、歯科医院が問診票、お薬手帳確認、歯科衛生士の観察、薬局・医科との連携で見直したい点を整理します。
3行要約
- 厚労省は2026年7月31日、高齢者ポリファーマシー対策の普及啓発資材を新たに作成し、都道府県等へ周知しました。
- 資材は医師、歯科医師、薬剤師を主な対象に含み、各論編では歯科衛生士の口腔内・嚥下機能確認にも触れています。
- 歯科医院では、問診票、お薬手帳、一般用医薬品・サプリメント、残薬、嚥下困難、薬局・医科への共有項目を点検しましょう。
今回のポリファーマシー通知で変わったこと
今回の更新は、制度改正ではなく普及啓発資材の新規作成です。歯科医院では、レセプトや施設基準の変更として読むのではなく、高齢患者の安全な診療に必要な服薬情報の確認手順として読むのが実務的です。
2026年7月31日に4つの資材が公表された
厚生労働省は2026年7月31日付で、ポリファーマシー対策の考え方・取り組み方を普及啓発するための資材を新たに作成したと公表しました。対象となる資材は、総論編の概要、各論編の概要、病院における始め方と進め方、地域における始め方と進め方の4つです。
通知そのものは、都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部局長宛てに発出されています。本文では、医療機関、薬局、関係団体で資材を活用するよう周知を求めています。
算定変更や届出追加ではない
今回の資料は、診療報酬改定、疑義解釈、施設基準通知ではありません。したがって、歯科医院の算定可否、届出、施設基準が2026年7月31日付で変わったとは書けません。
一方で、総論編の概要では利用対象に歯科医師が含まれています。各論編では、歯科衛生士がおこなう口腔内環境や嚥下機能の確認にも触れています。歯科医院は「対象外」と見るより、高齢患者の服薬情報をどう拾い、誰へつなぐかを整える資料として使うのが適切です。
歯科医院が押さえるポリファーマシーの意味
ポリファーマシー対策で最初に避けたい誤解は、「薬の数が多いから悪い」「歯科医院が薬を減らす」という理解です。歯科では、服薬の全体像を把握し、診療上のリスクや困りごとを見つけ、必要に応じて主治医や薬剤師につなぐ役割が中心になります。
単なる多剤服用とは違う
厚労省の総論編では、ポリファーマシーを、単に服用薬剤数が多いことではなく、薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態として説明しています。
歯科医院では、抗凝固薬、糖尿病治療薬、降圧薬、睡眠薬、骨粗鬆症治療薬、鎮痛薬、抗菌薬など、口腔外科処置、疼痛対応、感染対応、転倒リスク、嚥下、セルフケアに関係する薬剤を日常的に確認します。薬の数だけで判断せず、現在の診療や生活にどんな影響があるかを確認することが大切です。
自己判断の中止を促す資料ではない
ポリファーマシー対策は、患者に薬を自己判断でやめてもらうためのものではありません。指針では、処方見直しは患者の状態、疾患、ADL、生活環境、服薬状況を踏まえ、多職種で情報を共有しながら慎重に進める前提で書かれています。
歯科医院で患者へ伝えるなら、「飲んでいる薬を全部把握したうえで、安全に治療するために確認します」「気になる薬や残薬があれば、主治医や薬剤師に相談できるよう情報を整理します」といった説明が現実的です。
歯科問診で追加したい確認項目
歯科問診では、処方薬名だけでなく、服薬の実態まで確認できる形にすると、ポリファーマシー対策に使いやすくなります。特に高齢患者では、お薬手帳に載っていない一般用医薬品やサプリメント、残薬、飲み忘れ、嚥下困難が見落とされやすい点です。
お薬手帳と本人申告をセットで見る
各論編では、お薬手帳を活用した医師、歯科医師、薬剤師、医療スタッフの連携・協働が望まれるとされています。ただし、お薬手帳にすべての薬剤が管理されているとは限らないため、不足情報を補う姿勢も必要です。
受付や診療前問診では、お薬手帳の有無、手帳の冊数、最新更新日、医科の受診先、薬局、残薬、飲み忘れ、薬の自己調整を確認します。訪問歯科では、薬袋、服薬カレンダー、施設の服薬管理記録、家族や介護職の情報も合わせて確認すると、より実態に近づきます。
一般用医薬品とサプリメントも聞く
総論編と各論編は、処方薬だけでなく、要指導・一般用医薬品、サプリメント等も含めて確認する重要性に触れています。歯科では、痛み止め、かぜ薬、胃薬、睡眠改善薬、健康食品などが、処方薬との重複や相互作用の確認対象になり得ます。
問診票には「病院でもらっている薬」だけでなく、「薬局やドラッグストアで買って飲んでいる薬」「健康食品・サプリメント」「最近飲むのをやめた薬」を分けて書ける欄を用意すると、聞き漏れを減らせます。
歯科衛生士と訪問歯科で見たいサイン
今回の各論編で歯科医院が特に使いやすいのは、歯科衛生士の役割が具体的に示されている点です。服薬情報は歯科医師だけが見るものではなく、口腔内環境、嚥下、服薬困難の変化に気づくスタッフが共有する情報として扱う必要があります。
嚥下機能と剤形を確認する
各論編は、歯科衛生士の役割として、口腔内環境や嚥下機能を確認し、薬剤を内服できるかどうか、剤形や服用方法、薬物有害事象としての嚥下機能低下等を確認することを挙げています。
たとえば、錠剤が飲みにくい、口腔乾燥が強い、むせが増えた、食形態が変わった、服薬後に口の中へ薬が残る、といった情報は歯科衛生士が気づきやすいサインです。診療録や訪問記録に残し、必要に応じて歯科医師から薬剤師や主治医へ共有できるようにします。
口腔ケアと服薬支援を分けずに見る
在宅や施設の患者では、口腔ケア、食事、服薬、嚥下、残薬がつながっています。各論編では、薬物療法の適正化には他職種との連携が必要であり、介護支援専門員が情報を集約して主治の医師、歯科医師、薬剤師へ伝える役割にも触れています。
訪問歯科の現場では、服薬カレンダーが使われているか、飲みにくい剤形がないか、口腔乾燥や嚥下機能低下が服薬に影響していないか、ケアマネジャーや訪問看護へ共有すべき変化がないかを確認します。歯科単独で薬剤を判断するのではなく、観察した事実を医科・薬局へ渡すことが重要です。
院内対応チェックリスト
- 問診票に、処方薬、一般用医薬品、サプリメント、最近中止した薬、残薬、飲み忘れを分けて書ける欄を作る。
- 初診時だけでなく、抜歯・外科処置前、訪問開始時、退院後、施設入所後、体調変化時に服薬情報を再確認する。
- お薬手帳が複数冊ある場合や更新が古い場合は、薬局名、医科受診先、家族・介護者の把握状況を確認する。
- 歯科衛生士が、口腔乾燥、嚥下困難、錠剤の飲みにくさ、服薬後の口腔内残留、むせ、食形態の変化を記録できるようにする。
- 薬局や主治医へ共有する情報を、患者基本情報、気づいた症状、歯科処置予定、確認したい薬剤、緊急度に分けて準備する。
- 患者へは「薬を減らしてください」ではなく、「安全に歯科治療を受けるため、飲んでいる薬を一緒に確認します」と説明する。
注意点とまだ決まっていないこと
今回の通知を、歯科医院の義務追加や診療報酬上の変更として扱うのは誤りです。現時点で確認できるのは、普及啓発資材が新たに作成され、医療機関、薬局、関係団体で活用するよう周知されたことです。
歯科だけで減薬を判断しない
歯科医院ができるのは、診療上必要な服薬情報を確認し、口腔・嚥下・生活上の変化を拾い、必要な相手へ共有することです。医科で処方された薬剤の中止や変更は、処方医や薬剤師との連携を前提に慎重に扱います。
特に高齢患者では、薬剤を急に中止することで元の疾患が悪化することもあります。記事や院内説明では、「減薬」よりも「服薬情報の整理」「安全性の確認」「主治医・薬剤師への相談」を前面に出す方が安全です。
次に見るべき資料
今後は、今回通知を受けた都道府県、地域歯科医師会、薬剤師会、自治体の地域包括ケア関連資料に、歯科向けの周知や研修案内が出る可能性があります。医院では、まず今回の厚労省資材を院内で共有し、次に地域の連携ルールへ反映されるかを確認します。
FAQ
今回の通知で歯科医院の算定や届出は変わりますか。
確認した資料上、変わりません。今回の通知は高齢者ポリファーマシー対策の普及啓発資材に関するもので、診療報酬改定や施設基準通知ではありません。
ポリファーマシーは薬が何種類以上の状態ですか。
厚労省の指針では、何剤以上という厳密な定義ではなく、薬物有害事象、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態として説明されています。薬剤数だけで判断しないことが重要です。
歯科衛生士は何を確認すればよいですか。
口腔内環境、嚥下機能、錠剤やカプセルの飲みにくさ、口腔乾燥、服薬後の口腔内残留、むせ、食形態の変化などを確認し、歯科医師や必要な多職種へ共有できるよう記録します。
患者に薬を減らすよう説明してよいですか。
歯科医院から自己判断での中止を促すのは避けます。患者には、飲んでいる薬の全体像を確認し、気になる点があれば主治医や薬剤師へ相談する、という形で説明します。
出典
- 厚生労働省「『高齢者におけるポリファーマシー対策の普及啓発資材について』の通知発出について」2026年7月31日
- 厚生労働省 医薬局医薬安全対策課「高齢者におけるポリファーマシー対策の普及啓発資材について」医薬安発0731第1号、2026年7月31日
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編の概要」2026年3月31日確定版
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)について」2018年5月29日
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について」2019年6月14日
- PMDA「安全対策に関する通知等(医薬品)」確認日2026年8月2日
Selectdays カスタマーサクセス担当
Selectdaysの実運用のサポートを担当しています。店舗のDX化に関するお悩み解決のノウハウを発信します。
