
THP指針案、歯科疾患二次予防の確認点
厚生労働省は2026年8月4日、第4回「事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会」の資料を掲載しました。報告書案では、THP指針に二次予防の考え方を広げる方向が示され、その対象となる健康課題の中に「歯科疾患」が明記されています。
これは2026年8月5日時点では報告書案であり、歯科医院に新しい診療報酬の届出や、企業向け歯科健診の義務が直ちに発生したという意味ではありません。ただし、歯科医院は、自院スタッフの健康保持増進と、企業・事業所向けの産業歯科保健支援の両面で、職場の歯科疾患予防を説明しやすくなる論点です。
この記事では、報告書案と日本歯科医師会の産業保健資料を基に、歯科医院が今から確認したい職域歯科の相談導線、受診勧奨、健康教育、個人情報の扱いを整理します。
3行要約
- 2026年8月4日掲載の第4回検討会資料で、THP指針の見直し案に「歯科疾患」を含む二次予防が示されました。
- 現時点では報告書案であり、歯科医院の新しい届出や企業健診義務を決めた資料ではありません。
- 歯科医院は、自院職員の受診勧奨と、企業向け産業歯科保健の説明資料・相談先を棚卸しするのが実務上の第一歩です。
THP指針案で歯科疾患が示された意味
今回の資料で重要なのは、職場の健康保持増進を生活習慣改善などの一次予防だけでなく、疾病の早期発見・早期治療である二次予防まで広げて整理している点です。歯科疾患は、その二次予防の対象となる健康課題の一つとして挙げられています。
二次予防は早期発見と早期治療の取組
報告書案では、労働者の健康保持増進は一次予防を主として取り組むものの、疾病の早期発見や早期治療を行うことで、発症や重症化を予防できることが期待されるため、二次予防の取組も推進すべきと整理されています。
歯科医院向けに言い換えると、職場で歯科疾患を扱う意義は「歯みがき啓発」だけではありません。歯周病、う蝕、義歯不適合、口腔機能の低下などを放置せず、必要な人を歯科受診や精密な確認へつなげる導線を作ることにあります。
歯科疾患はがん等と並ぶ健康課題として記載
報告書案と概要案では、二次予防の対象となる疾病に、がん、女性特有の健康課題、歯科疾患、骨粗しょう症、眼科疾患を含むものとすべきとされています。歯科疾患が職域の健康保持増進の中で明示された点は、歯科医院が企業や保険者へ説明する際の根拠になります。
一方で、資料は「歯科疾患」の具体的な検査項目、実施頻度、対象年齢、費用負担、精密検査の定義を細かく決めているわけではありません。医院側では、制度化された義務としてではなく、職場で歯科口腔保健を進める方向性として読む必要があります。
歯科医院にすぐ義務が増えたわけではない
今回の資料は検討会の報告書案と指針改正案です。歯科医院が明日から新しい様式を提出する、企業健診を必ず受託する、全職員に歯科検査を実施する、といった決定事項ではありません。
2026年8月5日時点では報告書案
第4回資料の報告書案には「令和8年●月●日」と未確定の日付が残り、THP指針の新旧表も案として示されています。したがって、記事や院内共有では「決定済みの義務」と表現しないことが重要です。
ただし、検討会の方向性は実務準備の材料になります。特に、歯科医院が企業向けの健康教育、職域歯科相談、歯科早期受診勧奨に関わる場合、今回の資料は「なぜ職場で歯科疾患を扱うのか」を説明する背景になります。
診療報酬や歯科特殊健康診断とは分けて読む
今回のTHP指針案は、診療報酬改定資料ではありません。また、有害業務に係る歯科特殊健康診断の結果報告義務を新たに変える資料でもありません。企業向け歯科健診、産業歯科保健、歯科特殊健康診断は関係し得ますが、それぞれ根拠資料と運用が異なります。
歯科医院では、患者向け・企業向け説明で「今回の資料により歯科健診が義務化された」と言い切らないよう注意します。正確には、職場の健康保持増進の文脈で、歯科疾患の二次予防を含める方向が示された、という整理です。
歯科医院が見るべき実務ポイント
歯科医院が今からできることは、制度の先取りではなく、相談導線と説明資料の整備です。自院スタッフ向けの健康管理と、企業・保険者へ提供する産業歯科保健メニューを分けて確認すると進めやすくなります。
自院スタッフの歯科受診勧奨を見直す
歯科医院は医療機関である一方、スタッフを雇用する事業場でもあります。非常勤や短時間勤務の職員を含め、就業形態にかかわらず健康保持増進を考えることが資料上も示されています。
まずは、スタッフが自院または他院で定期的に歯科受診しやすいか、勤務時間中の受診配慮をどう扱うか、歯科疾患や顎関節症、口腔乾燥などを相談しやすい雰囲気があるかを確認します。従業員の健康情報はセンシティブなので、受診歴や診断名を院内で不用意に共有しない運用も必要です。
企業向けには受診勧奨と健康教育を分ける
企業から相談を受ける歯科医院では、健康教育、簡易チェック、歯科受診勧奨、歯科特殊健康診断、産業歯科保健研修を混同しないことが重要です。講話やリーフレット配布は健康教育、症状やリスクに応じて受診を促すことは受診勧奨、有害業務に基づく歯科特殊健康診断は別の法令実務です。
日本歯科医師会の産業保健ページには、歯科早期受診勧奨リーフレット、産業歯科保健ハンドブック、健口チェック、企業向け資料などが整理されています。企業向け提案を作る前に、公式資料でメニューの位置づけをそろえると、過度な営業表現を避けられます。
職域歯科の院内チェックリスト
- 今回の資料を「報告書案」として共有し、決定済みの義務や届出として扱わない。
- 自院スタッフの歯科受診、口腔不調の相談、勤務時間中の受診配慮について院内ルールを確認する。
- 企業向け資料では、健康教育、受診勧奨、歯科特殊健康診断、治療と就業の両立支援を分けて説明する。
- 企業や保険者へ案内する場合、日本歯科医師会の産業保健資料、健口チェック、歯科早期受診勧奨リーフレットを確認する。
- 職場の歯科相談で得た健康情報について、記録の範囲、共有先、保存場所、本人同意を事前に決める。
- 地域歯科医師会、産業保健総合支援センター、自治体の相談先を一覧化する。
受診勧奨の記録は最小限にする
職場で歯科相談や口腔チェックを行う場合、企業側が知りたい情報と、本人の健康情報として守るべき情報を分けます。企業へ共有するのは、実施人数、受診勧奨件数、教育内容などにとどめ、個人の診断名や治療内容は本人同意なしに共有しない設計が基本です。
PHRやアプリを使う場合も同じです。第4回資料の参考資料には、健診等情報を扱うPHR事業者向けの基本的指針が添付されており、健診等情報は要配慮個人情報として安全管理や同意取得の対象になります。歯科医院が企業向けにデジタルツールを紹介する場合は、便利さだけでなく情報管理も確認します。
今後確認すべき資料と注意点
次に見るべきなのは、最終報告書、THP指針の改正公示、手引きの改定、健康教育教材の公開状況です。歯科医院は、今回の案だけで実施項目を固定せず、最終版の文言を確認してから院内資料や企業向け提案を更新します。
指針改正後に確認すること
指針が改正された場合は、二次予防の対象、健康教育の扱い、受診勧奨、休暇付与等、PHRへの言及、事業場外資源の活用先を確認します。歯科疾患については、地域の歯科医師会、保険者、自治体、産業保健総合支援センターとの連携可能性も見ます。
歯科医院の広告・説明表現にも注意する
企業向けに案内するときは、「職場の健康保持増進に歯科疾患の二次予防が含まれる方向です」と説明するのは適切ですが、「企業は必ず歯科健診を導入すべき」「導入すれば生産性が確実に上がる」といった断定は避けます。公式資料から確認できる範囲に限定し、健康教育や受診勧奨の選択肢として提案するのが安全です。
FAQ
今回の資料で企業の歯科健診が義務化されましたか
いいえ。確認した資料は報告書案とTHP指針の見直し案であり、企業の一般的な歯科健診を一律に義務化したものではありません。歯科疾患を含む二次予防を職場の健康保持増進に含める方向が示された資料として読みます。
歯科医院は企業向けサービスをすぐ始めるべきですか
すぐに新サービス化するより、まず健康教育、受診勧奨、歯科特殊健康診断、相談対応の違いを整理してください。日本歯科医師会の産業保健資料や地域の相談窓口を確認し、自院がどの範囲を担えるかを決めるのが現実的です。
自院スタッフにも関係しますか
関係します。歯科医院もスタッフを雇用する事業場です。非常勤を含む職員が口腔の不調を相談しやすいか、必要な受診につながるか、健康情報をどう扱うかを確認する材料になります。
PHRやアプリを使った口腔チェックは自由に導入できますか
導入自体をこの記事で否定するものではありませんが、健診等情報や口腔の健康情報は個人情報として慎重に扱う必要があります。利用目的、同意取得、アクセス権限、保存・削除、企業への共有範囲を確認してください。
出典
- 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会 第4回資料」2026年8月4日
- 厚生労働省「資料1 事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会 報告書(案)」2026年8月5日
- 厚生労働省「参考資料1 事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会報告書の概要(案)」2026年8月5日
- 厚生労働省「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」2021年4月、2022年4月一部改正
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
- 日本歯科医師会「産業保健」
- 日本歯科医師会「産業歯科保健超入門編」
Selectdays カスタマーサクセス担当
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